コロナ禍でもっとも大きなダメージの受けかねない部門のひとつが中小企業である。経済の大きなウエイトを占める中小企業の動向は、直接的に日本経済のゆくえを左右する。今回は、中小企業部門の長期的な成長トレンドを概観してみたい。
日本経済における中小企業の重要性と脆弱性に対する認識を背景に、戦後長らく中小企業に対しては、手厚い保護的施策が講じられてきた。こうした平時の施策に加え、景気が大きく落ち込むと大規模な対策が講じられるのも常となっている。緊急対応のはずが実際は長期化したり、ことあるごとに対策が繰り返されてきたことから、特に90年代末以降は“緊急的な”支援が続いてきた。これらは十分な効果を発揮してきたのだろうか。
ここで危惧されるのは「保護政策は長期的に産業競争力を弱める」という経済学の一般法則である。以下の図は、大企業と中小企業の経済成長率の格差の長期トレンドである。格差が長期的に拡大傾向にある状況が明確に見て取れる。
(注)財務省「法人企業統計」の付加価値額に基づく筆者の推計で、具体的な方法は以下の通りである。資本金1億円未満の企業を中小企業、同1億円以上を大企業とみなし、それぞれの付加価値額および一人当たり付加価値額を集計する。その前年比を計算し、大企業の値から中小企業の値を減じる(得られた値は大企業と中小企業の成長格差に相当する)。そのままでは循環変動の影響によりトレンドが見えにくいため、HPフィルター(Hodrick-Prescott filter)により循環成分とトレンド成分に分解し、トレンド成分を表記したものが本グラフである。
もともとわが国の中小企業部門の成長は大企業より鈍かったが、その傾向が近年は一段と強まっている。確かに短期的には、不況時などに中小企業部門が雇用の受け皿となることなどを通じて、1社あたりの成長が大企業より鈍る可能性はある。しかし、ここで観察されるのは、「長期的」かつ「1社当たりと部門合計の双方」の成長格差の拡大である。中小企業部門の成長力が長期的に低迷しているといわざるを得ない。これはきわめて政策的な課題である。それに関連する筆者の考えは、2021年5月14日付日本経済新聞(朝刊)「経済教室」欄に示しているので、ご関心の向きは参照されたい。
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